1. 細菌とヒトとの相互作用について
当研究室では細菌と宿主(ヒト)の相互作用を研究対象としています。
なかでも細菌が産生するタンパク質毒素の多くは、微量で宿主に致死など大きな影響を与えるという特徴を持ちます。細菌毒素がこのような強力な作用を発揮できる理由の一つとして一般的に考えられているのは、多くの細菌毒素が微量でも宿主の機能分子に特異的に作用する酵素であるということです。
もう一つ重要な細菌毒素の特質として、作用する基質に効率よくターゲティングする機構すなわち巧妙な輸送機構をもつ場合が多いことが挙げられます。その輸送機構は、もともと細胞が基本的・生理的にもっている膜輸送系やオルガネラの機能をうまく利用している場合が多いことがわかってきました。従って細菌毒素の輸送経路の研究は、毒素による病態発現機構の解明という意義に加えて、従来知られていなかった宿主細胞の基本的で重要なしくみを明らかにできる可能性も秘めています。
このような研究は外来病原因子の侵入に対する宿主の防御システムを理解し制御する上でも重要です。当研究室は、腸管上皮細胞バリアを巧妙に通過してボツリヌス食中毒を引き起こすボツリヌス神経毒素複合体を研究対象として、本毒素の構造と機能の分子レベルの解析を中心に行っています。